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取材・構成を担当

第1回 富山のひとりの『けいおん!』ファンが作曲家になるまでの道

eba①『けいおん!』 | Febri

曲に感動して作曲した川口進さんに電話しちゃいました――最初に挙げていただいた作品は『けいおん!』ですが、これはどのような理由からでしょうか? eba これは僕が音楽の仕事をするきっかけとなった作品です。僕は富山県南砺(なんと)市の生まれで、当時、新作アニメがほとんどと言っていいほど放送されない地域でした。見たかったらレンタル店に行って借りるか、ケーブルテレビしか視聴方法がなかったんです。なので、『けいおん!』も、そんなレンタル店でたまたま手にした作品でした。高校を出て就職したての20歳の頃でしたね。で、見たらもう、メチャメチャ泣いちゃいました。「俺はこれをやりたかったんだよ!!」って感じで(笑)。 ――それはどんな思いからだったのでしょう? eba 音楽って、僕の人生にとって二次元と同じくらい大事な幹なんです。中学生の頃から始めたのですが、その二次元と音楽の両方が、ものすごいクオリティで融合している作品に初めて出会えたと感じました。というのも、地元の音楽人口がとても少なくて、音楽活動をしている子なんて学校にほぼいなくて。理解がある人も少なかったですし、僕は子供の頃に病気がちだったこともあって、普通の人と同じ生活ができなかったので、『けいおん!』の世界は「やり逃した青春」に見えたんです。 ――かわいい子たちのゆるふわな学生生活も魅力ですが、ebaさんにとっては、あの作品の「音楽」という要素にも惹かれたわけですね。とくに心に響いた楽曲は何でしたか? eba Tom-H@ckさんが作曲された『Cagayake!GIRLS』も衝撃的でしたし、『ふでペン ~ボールペン~』も心をつかまれました。明るいんだけれども、泣ける曲で。音楽制作において、明るい曲調で泣かせるというのはとても難しく、まさにそれを体現している楽曲だと思いました。それで、これを書いている人はどんな人なんだろうと思って調べたら、川口進さんという方で、しかも同じ富山県の別の市に住んでいるということがわかったんです。富山は音楽があまり盛んではないので、そんな方が『けいおん!』の曲を書いているとわかったらこの感動を伝えたくなって、いても立ってもいられずに川口さんに電話してしまったんです。 ――なんと行動的な(笑)。 eba 今、振り返ると完全にヤバいですよね(笑)。僕はメタルが好きで、なかでもEquilibrium(エ

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第2回 自分を肯定してくれた『イリヤの空、UFOの夏』

eba②『イリヤの空、UFOの夏』 | Febri

何者にもなれない人間でも、イリヤみたいな子がいたら――――続いて挙げていただいたのは、OVA『イリヤの空、UFOの夏(以下、イリヤ)』。秋山瑞人さんの原作は読んだんですか? eba いえ、アニメからですね。ライトノベルは高校でめっちゃ好きな友達がいて、彼から貸してもらった『フルメタル・パニック!』を読んだりしていたのですが、『イリヤ』は読んでいなくて。高校卒業後の18か19歳の頃にたまたまレンタル店でDVDを手に取ったのがきっかけです。『けいおん!』より前ですね。それまでもラノベやマンガはそれなりに読んでいたんですけど、『イリヤ』のアニメを見てからはもう完全に「ここまでのめり込んじゃうって、俺はオタクだなー」と自覚していました。 ――作品のどんなところからそれを感じたんですか? eba この作品はいわゆる「セカイ系」と呼ばれる作品で、作中では、地球が滅んでしまうレベルのものすごく大きな出来事が起きているんです。なのに、主人公の浅羽とヒロインのイリヤのふたりだけの狭い世界をひたすら描いていて、世界の存亡について具体的な話をあんまりしないんですよ。その妄想感の強い感じが、オタクと親和性があるのかなって。 ――見たときは浅羽の視点で? eba そうですね。どうしても浅羽の視点で見ちゃうんですよ。自分を重ねられる部分が大きかったんです。浅羽って、自分では何もできなくて全部イリヤまかせだし、なんかどうしようもねぇなと思うんですけど、その頃の僕自身も何者でもなかったし、何者にもなれないと思っていた。その虚無感みたいなものを埋めてくれる作品というか、「何者にもなれない人間でも、イリヤみたいな子がいたら、こんなに人生が輝く瞬間があるんだろうな……」と思って、のめり込んでしまうというか。人生って、目標とか夢があったほうが絶対に楽しいじゃないですか。しかもそれが世界を救うとか、この子を守るといった圧倒的に強い目標だとすごくキラキラして見える。そんな感覚だったと思います。 『イリヤ』を見たあとは 夏が来るたびに 泣きそうになる――見たあとの人生観にも影響がありそうですね。 eba そうですね。これはネタバレですが、『イリヤ』の終わり方って、ハッピーエンドなのかバッドエンドなのかと当時けっこう議論されていたんですよね。僕はあれをバッドエンドだと思っています。なぜかというと、イリヤがこの世に

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第3回 クリエイターの熱量に感動した『パプリカ』

eba③『パプリカ』 | Febri

今敏と平沢進、映像と音楽の奇跡の組み合わせ――3本目は『パプリカ』ですが、これまでに挙げた作品とは毛色が少し違いますね。 eba これも20歳前にアニメのDVDをあさっていたときに出会った作品です。『けいおん!』も『イリヤの空、UFOの夏(以下、イリヤ)』もストーリーや世界観が好きだったのですが、『パプリカ』はなんというか、画から監督の執念が伝わってくるタイプの作品でした。アニメにおけるすべてのパーツが、作られたものではなく、もともと存在していたかのような感覚に陥ったというか、熱量がものすごかったですね。さらに劇伴が平沢進さんで、アーティストの方がやっているとは思えないほど画面とマッチしていました。作中に人形がパレードをする不気味なシーンがあって、そこに明るい音楽を当てることで、より不気味さを強調するという演出。これまで僕が見てきたアニメにはない作風でドハマりしました。 ――今敏監督作品は、このときが初めてでしたか? eba はい。『パプリカ』から入って、さかのぼって『パーフェクトブルー』『千年女優』『妄想代理人』といろいろ見ていった感じです。たぶん、それまでは監督名で意識するということはなかったので、初めて名前を意識した監督という感じでしたね。本当に偉大というか、尊敬の念しかありません。ひたすら人生を捧げて作品を作っていた方というか、宮崎駿さんに通ずる何かを感じます。今さんのホームページって見たことあります? 制作当時の様子を文章で遺されているんです。もう、ドキュメンタリー映画ってレベルの詳しさで制作への想いを書かれていて、それを読むのが楽しみでした。作品を見たあとにあれを読むと、細かいところもわかってくるし、『千年女優』でできなかったことを『パプリカ』でやったんだなとか、いろいろなことが書いてあって、クリエイターとしての熱量にものすごく感動しました。 『パプリカ』は 画から監督の執念が 伝わってくるタイプの作品――先ほどパレードのシーンのお話をしていましたが、『パプリカ』でとくに印象的だった場面はどこでしょう? eba まずオープニング映像からしてスゴいんですよ。クレジットの出し方ひとつとっても見たことがありませんでしたし、まだパプリカの能力がわからないなかで、人をすり抜けたりいろいろな場所に現れたりする。その流れや演出がとても秀逸で、いきなりつかまれた感があり

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日詰明嘉 HIZUME Akiyoshi

2009年よりフリーランスのライターとして活動開始。アニメ、アニソン、声優、CGの記事を雑誌、書籍、Web、オフィシャルパンフレット、ブックレットなどに寄稿しています。このブログは仕事履歴を記録したものです。

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